はじめての方へ
- はじめに、メニュー画面の「地域を選ぶ」から、知りたい地域を選びます。
- 自動的に、画面にエネルギーフロー図が作図されます。図左側の燃料資源の内訳から、図右側の消費側の内訳に至るまでの一連のエネルギーの動きがわかります。線の太さは、エネルギー量に比例し、単位はTJ(テラ・ジュール、10の12乗ジュール)です。
- 次に、メニュー画面右側の「シミュレーションパラメータ」の各項目を動かします。太陽光発電など再生可能エネルギー量を増減させる、あるいはEVに代表される運輸部門電化率を増加させると、その項目の影響がエネルギーフロー図に反映されて変化します。
- 参考として、画面下部の「エネルギー起源CO2排出量」には、選んだ地域のCO2排出量が表示されます。「シミュレーションパラメータ」に連動して、数値が変わります。
- このほか、メニュー画面の「エネルギーマップ」には、日本地図上で各地域の特性が色別に表示されます。
- メニュー画面の「市区町村別エネルギー消費統計」では、各地域のエネルギーバランス表をデータ形式でダウンロードできます。ご自分のPCなどでデータ分析を進める際にお役立て下さい。
- 市区町村別に加えて、都道府県別や国全体のデータも掲載しましたので、広い地域特性を知りたい際にご利用ください。
第1章では、地域エネルギーシステムを皆様がデザインすることを目的として、各種データの定義や算出根拠などを解説します。
第2章では、KPIツリーに基づく地域エネルギーシステムデザインの手順をまとめます。
第3章では、地域エネルギー需給データの構成を、出典や推定を含めて紹介します。
第4章では、未来エネルギーシミュレータの機能を解説します。
第5章では、地方公共団体における地域エネルギー需給データベースの活用事例として、岩手県宮古市の事例を紹介します。
第6章では、地域間連携の可能性について、その定義と期待される効果について説明します。
第7章では、セクターカップリングの機能と課題について解説します。
すでにデータベースの多くの利用者の方から、ご意見やご期待を頂戴しています。その一部をご紹介します。
- 本データベースは、地域の現状を表す総合指標として客観的な現状把握と関係者間での共有が可能となり、自治体単位でデータ整備された意義は大きい。
- 今後のデータベースの機能拡充に期待している。技術導入に係わる情報や地域振興につながる指標との連携を期待する。
- データベースの活用事例を増やしていく方策の検討と、データを陳腐化させないためのメンテナンス体制を構築するなどの対応を期待する。
今後も皆様のご支援を得ながら、本データベースの運用を進めて参ります。
1.地域エネルギーシステムとは
1-1.エネルギー資源
バイオマスは、エネルギー作物など植物由来のバイオエタノールとバイオディーゼルが、内燃機関用の液体燃料として石油の代替として用いられる。もうひとつは、廃棄物由来のもので、家畜排せつ物(牛糞、豚糞、鶏糞)、食品廃棄物、下水汚泥、農業系廃棄物(稲わら、もみがら、麦わら)、建築廃材などである。木質バイオマスは、国内の間伐材、林地残材、製材残材、街路樹の剪定枝に加えて、海外からは木質チップやペレットの形態で火力発電の混焼燃料として輸入されている。
エネルギー統計では、これらのエネルギー資源の年間供給量を、一次エネルギー総供給量という。
1-2.エネルギー変換
各エネルギーキャリアの特徴をみると、電力は多様なエネルギー資源を原料として、火力発電、原子力発電、水力発電、風力発電、太陽光発電等のエネルギー変換技術によって発電される。輸送用燃料は、石油を製油所にて精製して、ガソリンや軽油などの石油製品に変換される。熱は、化石燃料を燃焼して蒸気や温水等の熱エネルギーに変換される。太陽熱や地中熱も熱エネルギーの一種である。
エネルギー資源を一次エネルギーというのに対し、エネルギーキャリアを二次エネルギーという。二次エネルギーは、需要家にて各用途に消費される。
1-3.エネルギー需要
1-4.地域エネルギーシステムとエネルギーフロー図
エネルギーフローは、国、都道府県、市区町村、地区・建物単位など、対象とするエネルギーシステムの範囲を任意に設定できる。フロー図は、別名でサンキーダイアグラムとよび、プロセスの全貌を俯瞰する作図法としてマテリアルフローなど化学工学の分野で広く用いられている。エネルギーや物質について、プロセス毎の出入りや派生する損失量を容易に理解することが可能である。金融のキャッシュフローの作図も可能である。エネルギーフローを分析することによって、(1)エネルギー供給構成や部門別エネルギー消費量の現状把握、(2)エネルギーシステム導入計画や省エネルギー対策の立案、(3)計画導入後の地域効果の評価、にそれぞれ活用できる。
エネルギーフロー図の構成を図1-3に示す。本「データベース」では、米国エネルギー省ローレンス・リバモア国立研究所の作図法1に基づいている。同研究所エネルギー部では、エネルギーフロー図に加えて、カーボンフロー図も作成している。また、従来は米国一国を対象としていたが、最近では米国各州のエネルギー需給を分析して州別エネルギーフロー図の作成を始めた。
国際エネルギー機関IEAでは、世界各国のエネルギーフロー図を作図して、公開している2。
1 Energy Flow Charts, Lawrence Livermore National Laboratory, https://flowcharts.llnl.gov
2 IEA Sankey Diagram, International Energy Agency, https://www.iea.org/sankey/
1-5.地域エネルギーシステムのデザインとは
1-6.地域エネルギーシステムの評価指標の定義
(1)一次エネルギー総供給量
一次エネルギー総供給量 [TJ] = 地域内エネルギー生産量 [TJ] + エネルギー移入量[TJ] – エネルギー移出量[TJ]
ここで、一次エネルギーは、電力や熱などの二次エネルギーに転換される前のエネルギーであり、石炭、石油、天然ガス、風力、太陽光などが含まれる。また、風力、太陽光、地熱、中小水力などの再生可能エネルギー資源は、二次エネルギー量(発電電力量または熱供給量)に換算する際には、この二次エネルギー量と同量を、消費した一次エネルギー量とみなすことが多い。実際の再生可能エネルギー機器の変換効率(たとえば太陽電池は約14~20パーセント)を換算には加えていない。
移出量とは、他地域へ販売し供給したエネルギー量である。いずれも、国家間の取引を表す輸出入に対応して、地域間の取引として独自に定義した。
(2)最終エネルギー消費量
最終エネルギー消費量 [TJ] = 燃料消費量 [TJ] + 電力消費量 [TJ] + 熱消費量 [TJ]
(3)エネルギー転換損失
エネルギー転換損失 [TJ] = 一次エネルギー総供給量 [TJ] - 最終エネルギー消費量 [TJ]
(4)再生可能エネルギー移出ポテンシャル
再生可能エネルギー移出ポテンシャル[TJ] = 再生可能エネルギー導入ポテンシャル[TJ] - エネルギー需要[TJ]
(5)電化率
仕事量 = 最終エネルギー消費量 × エネルギー消費効率
(6)エネルギー自給率
3 IEA, World Energy Balances – Database documentation 2022 edition (2022).
(7)電力自給率
(8)エネルギー移入依存率
(9)エネルギー起源CO2排出量
エネルギー起源CO2排出量 [t-CO2] = 一次エネルギー供給量 [TJ] × CO2排出係数 [t-CO2/TJ]
CO2排出量の算出における注意点を記す。地球温暖化対策計画等に記載するCO2排出量は、経済産業省と環境省の算定省令4に則って算出する必要がある。算定省令では、エネルギー種区分を表1-1のとおり考慮するよう定められている。
4 特定排出者の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量の算定に関する省令 (平成⼗八年三⽉二⼗ 九日経済産業省・環境省令第三号)別表第1(第2条関係)
表1-1 算定省令および市区町村別エネルギー消費統計のエネルギー種区分
算定省令における エネルギー種区分 |
市区町村別エネルギー消費統計における エネルギー種区分 |
---|---|
原料炭 | 石炭 |
一般炭 | |
無煙炭 | |
コークス | 石炭製品 |
コールタール | |
コークス炉ガス | |
高炉ガス | |
転炉ガス | |
コンデンセート(NGL) | 原油 |
原油(コンデンセートを除く) | |
ガソリン | 軽質油製品 |
ナフサ | |
ジェット燃料油 | |
灯油 | |
軽油 | |
石油コークス | 重質油製品 |
石油アスファルト | |
A重油 | |
B・C重油 | |
石油系炭化水素ガス | 都市ガス・石油ガス |
液化石油ガス(LPG) | |
都市ガス | |
液化天然ガス(LNG) | 天然ガス |
天然ガス(LNGを除く) |
(10)地域エネルギー経済収支
エネルギー経済収支 [億円/年] = エネルギー移出額 [億円/年] – エネルギー移入額 [億円/年]
2.KPIツリーに基づく地域エネルギーシステムデザインの手順
2-1.KGIとKPIの定義
KPIは、重要業績評価指標(Key Performance Indicator)の略であり、目標を達成するための各プロセスが適切に実施されているかを定量的に評価する指標である。KPIツリーとは、目標群を階層的に並べ、それらの依存関係を線でつないだロジックツリー(図2-1)である。KPIツリーを作成する際には、以下が重要である。
数値目標には、最終的に達成したいKGI(Key goal indicator, 重要目標達成指標 )とKGIを達成するために必要なKPI(Key performance indicator, 重要業績評価指標)がある。たとえば、気候変動対策を目的とする場合のKGIにはCO2排出量を、KPIには化石燃料消費量や再エネ導入量などが設定する。KGIを達成するための手段が多いほど、目標をKPIによって細分化することによって、KGI達成に向けた具体的な方策を考えることが容易になる。
地域エネルギーシステムデザインでは複数のKGIが必要となり得る。KGIは目的に合わせて設定され、一つに絞ることが多い。しかしながら、地域エネルギーシステムデザインの目的は、脱炭素化、地域経済的価値の創出、レジリエンスやエネルギーセキュリティの向上など地域社会によって多様であり、複数のKGIが必要となってくる。その際に、一つのKPIが複数のKGIに影響する場合があるため、KGIごとにKPIツリーを作成するのではなく、すべてのKGIとKPIを網羅したKPIツリーを作成するほうが望ましい。
2-2.地域エネルギーシステムデザインの手順
(1)ビジョン・構想づくり
- 都道府県単位のデータでは把握できない地域のエネルギー需給の特徴を市区町村単位の「データベース」を活用して把握する。
- 地域ごとの特徴を把握する。都道府県のデータでは把握できない、市区町村単位のエネルギー需給を「データベース」を活用して把握する。
- 「再生可能エネルギー導入ポテンシャル」、「エネルギー需要」、「再生可能エネルギー移輸出入ポテンシャル」を、「データベース」から俯瞰する。
- 1741市区町村のエネルギー消費統計表をダウンロードして、たとえば産業分類別のエネルギー消費割合から市区町村の特徴や類似性を分析する。
(2)計画の検討
- エネルギー地産地消、広域連携等の検討のため、地域エネルギー需給の時刻変化を把握する。
- 地域の時刻別エネルギー需要推定の骨子を検討し、現状で把握できる情報を可視化する。詳細データが得られ次第、精度を高めていく。
- 地域内のエネルギー消費量の分布を推計する。「データベース」を活用して、現状でエネ需要の積上げが困難な部門でも相対的なボリュームを把握することができる。積上げで試算した結果の妥当性を判断する指標となる。
(3)実施と検証
5 地方独立行政法人北海道総合研究機構齋藤茂樹,地域エネルギー需給データベースの活用事例,地域エネルギーシステムデザイン研究会(2023).
3.地域エネルギー需給データ
3-1.再生可能エネルギー資源データ
(1)再生可能エネルギーポテンシャルの考え方
環境省は、資源量の区分と定義を表3-1に、賦存量と導入ポテンシャルを図3-1にそれぞれ定義している。
表3-1 再生可能エネルギー資源量の区分と定義6
区 分 | 定 義 |
---|---|
賦存量 | 技術的に利用可能なエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)。設置可能面積、平均風速、河川流量等から理論的に算出することができるエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)のうち、推計時点において、利用に際し最低限と考えられる大きさのあるエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)。 |
導入ポテンシャル | 各種自然条件・社会条件を考慮したエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)。賦存量のうち、エネルギーの採取・利用に関する種々の制約要因(土地の傾斜、法規制、土地利用、居住地からの距離等)により利用できないものを除いた推計時点のエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)。 |
事業性を考慮した導入 ポテンシャル |
事業性を考慮したエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)。推計時点のコスト・売価・条件(導入形態、各種係数等)を設定した場合に、IRR(法人税等の税引前)が一定値以上となるエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)。 |
したがって、再生可能エネルギーの導入計画や導入目標の策定にあたっては、導入ポテンシャルのうち対象地域では実際にどれだけの導入が見込まれるかを、実地調査もふまえて検討する必要がある。
6 環境省,令和 3 年度再エネ導入ポテンシャルに係る情報活用及び提供方策検討等調査委託業務報告書,https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/dat/report/r03/r03_whole.pdf
(2)変動性再生可能エネルギー
環境省が提供する「再生可能エネルギー情報提供システムREPOS(リーポス)」では、再生可能エネルギーポテンシャルメニューとして太陽光、風力など六種の再生可能エネルギーのポテンシャル推計結果やポテンシャルマップ等を公表している7。たとえば、太陽光発電の年間発電電力量は、JIS C 8907:2005「太陽光発電システムの発電電力量推定方法」8を参考に算出し、日射量・月平均気温はNEDO日射量データベース閲覧システムMONSOLA-209から取得している。陸上風力発電の年間発電電力量は、環境省「風況変動データベース」の風況マップ(年平均風速:地上高80m)10をもとに地上高90mの年平均風速を解析し、年平均風速5.5m/s 以上を抽出し、さらに開発困難条件(自然条件、社会条件)を重ね合わせて風力発電施設が設置可能なエリアを抽出し加工している。
以下の章では、太陽放射コンソーシアム11が提供する30分間隔および1kmメッシュの高時空間解像度気象データ(以下、AMATERASSデータセット)を用いて、風力・太陽光資源の賦存量を推定した事例を紹介する。
7 環境省, 再生可能エネルギー情報提供システム, https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/index.html
8 日本産業標準調査会, JISC8907太陽光発電システムの発電電力量推定方法(2005)
9 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構, 日本国内日射量データベース(月平均データMONSOLA-20、時刻別データMETPV-20),https://www.nedo.go.jp/library/ZZFF_100041.html
10 環境省, 風況マップ(全国),https://www.env.go.jp/earth/ondanka/windmap/
11 特定非営利活動法人太陽放射コンソーシアム http://www.amaterass.org/
(3)風力資源の賦存量の推定例
2019年を対象に推計した風力資源賦存量マップ(年間発電量ベース)を、図3-2に示す。この図では、洋上については、自然保護公園と水深200m以上のエリアを除く離岸距離30km以内のエリアを対象として可視化している。
12 R. Delage, T. Matsuoka, and T. Nakata, Spatial–Temporal Estimation and Analysis of Japan Onshore and Offshore Wind Energy Potential, Energies 14 (2021) 2168
13 環境省,REPOS令和元年度再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報等の整備・公開等に関する委託業務報告書(2020)
14 T. Ackermann, Wind Power in Power Systems, Ed. John Wiley & Sons Ldta (2005)
(4)太陽光資源の賦存量の推定例
2019年を対象に推計した太陽光資源賦存量マップ(年間発電量ベース)を、図3-3に示す。
15 I. Reda and A. Andreas, Solar Position Algorithm for Solar Radiation Applications, NREL/TP-560-34302, Revised (2008)
16 R. Perez, P. Ineichen, R. Seals, J. Michalsky, and R. Stewart, Modeling Daylight Availability and Irradiance Components from Direct and Global Irradiance, Energy 44, (1990) 271
17 T. Huld, M. Súri, and E. D. Dunlop, Geographical variation of the conversion efficiency of crystalline silicon photovoltaic modules in Europe, Prog. Photovolt. Res. Appl. 16 (2008) 595
18 M. K. Fuentes, A Simplified Thermal Model for Flat-Plate Photovoltaic Arrays, Sandia National Labs (1988)
19 環境省, 再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)時空間ポテンシャルデータ, https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/41.html
(5)木質バイオマス資源賦存量
①森林蓄積の増加量(用材利用部分を除く)
都道府県ごとの蓄積増加量を森林面積により按分し推計する。はじめに、「森林資源現況調査(農林水産省)」21の樹種別齢級別都道府県別の森林蓄積量の直近2回分(5年間隔)の差から5年間の都道府県別蓄積増加量を推計し、さらにそれを5年で除すことで年間平均値を算出する。この森林蓄積増加量に未利用資源発生割合を乗じて、エネルギー利用可能な資源量を得る。未利用資源発生割合は、「森林・林業統計要覧(農林水産省)」22に収録されている年間伐採量(伐採立木材積)」から素材生産量を除いた割合として、簡易的に算出できる。
②年間伐採実績量における未利用資源量
都道府県別未利用資源の年間発生量は、「森林・林業統計要覧(農林水産省)」の伐採立木材積の全国値を「木材需給報告書(農林水産省)」23の都道府県別素材生産量を用いて都道府県に按分し、その按分値から都道府県別素材生産量を差し引いて算出できる。
③枝条発生量
枝条発生量は、蓄積増加量および伐採実績量にバイオマス拡大係数を乗じて推計できる。バイオマス拡大係数とは、幹の体積に対する枝条発生量の割合を表した係数であり、日本国温室効果ガスインベントリ報告書などに記載されている。バイオマス拡大係数は樹種によって値が異なるため,各県ごとに樹種別の素材生産割合を用いて加重平均の値を用いている。
①素材生産工程までに発生する未利用資源量
未利用資源の年間発生量は、「森林・林業統計要覧(農林水産省)」の伐採立木材積と素材生産量の比を間伐・主伐の幹材積量に乗ずることで推計する。主伐までに行われる間伐回数は2回とし、一回で間伐時の15%を収穫する。
②枝条と根の発生量
枝条と根発生量はそれぞれ、幹材積量にバイオマス拡大係数と地下部バイオマスの比率を乗じて推計できる。バイオマス拡大係数は、幹の体積に対する枝条発生量の割合を表した係数、地下部バイオマスの比率は地上部バイオマスに対する地下部バイオマスの比率であり、日本国温室効果ガスインベントリ報告書などに記載されている。
20 環境省, 再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS), 自治体再エネ情報カルテ, https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/42.html#kartedata
21 農林水産省林野庁,森林資源の現況,https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/genkyou/index1.html
22 農林水産省林野庁,森林・林業統計要覧,https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/toukei/youran_mokuzi2022.html
23 農林水産省林野庁,木材統計調査(木材需給報告書),https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/mokuzai/
24 国土交通省,国土数値情報, 国有林野データ,https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-A45.html
3-2.市区町村別エネルギー消費量の推計手法
市区町村別エネルギー消費量を推計するための手法を大別すると、表3-2に示す二手法が代表的である。本「データベース」は、按分法に基づく。
表3-2 市区町村別エネルギー消費量の推計手法
手法の名称 | 按分法 (トップダウン型推計手法) |
積上法 (ボトムアップ型推計手法) |
---|---|---|
手法の概要 | 国や都道府県のデータを、エネルギー消費量と相関のある活動指標により比例配分する。 | アンケート調査やセンシング等の個票データに基づいて統計的に拡大推計する。 |
利点 |
|
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欠点 |
|
|
米国エネルギーエネルギー情報局(US-DOE, EIA)30では、従来からのエネルギーデータ分析に加えて、近年ではAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)連携31を装備したオープンデータを主体とする情報提供プラットフォーム32を開発し公表を始めている。
25 経済産業省資源エネルギー庁,総合エネルギー統計,https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/
26 経済産業省資源エネルギー庁,都道府県別エネルギー消費統計,https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/energy_consumption/ec002/
27 環境省,自治体排出量カルテ,https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/tools/karte.html
28 一般社団法人電力データ管理協会,https://denkankyo.jp/#about
29 総務省、位置情報の取り扱いに検討について,https://www.soumu.go.jp/main_content/000738897.pdf
30 U. S. Energy Information Administration, https://www.eia.gov
31 デジタル庁, 行政API, https://www.e-gov.go.jp/digital-government/api
32 U. S. Energy Information Administration, https://www.eia.gov/opendata/
3-3.エネルギー需給特性による市区町村の分類
(1)再生可能エネルギー資源類型
類型化手法:階層型クラスター分析(Ward法)
類型化結果:地理特性を反映した以下の6クラスターに分類できる(図3-4、図3-7)。
クラスター | 資源に関する特徴 |
---|---|
沿岸山地クラスター | 陸上/洋上風力ポテンシャルが高い。 |
沿岸平地クラスター | 洋上風力ポテンシャルが高い。 |
都市クラスター | 建物系太陽光・廃棄物以外のポテンシャルが低い。 |
中山間地域クラスター | 建物系太陽光・廃棄物・木質バイオマス・陸上風力ポテンシャルが高い。 |
火山地域クラスター | 地熱・中小水力ポテンシャルが高い。 |
山林地域クラスター | 中小水力・陸上風力・木質バイオマスポテンシャルが高い。 |
(2)エネルギー需要構成類型
類型化手法:階層型クラスター分析(Ward法)
類型化結果:産業構造等を反映した以下の8クラスターに分類できる(図3-5、図3-8)。
クラスター | エネルギー需要の特徴 |
---|---|
製紙業系クラスター | 紙・パルプ・紙加工品製造業の割合が高い。 |
窯業系クラスター | 窯業・土石製品製造業の割合が高い。 |
平均的クラスター | 他クラスターに含まれない地域によって構成される。 |
商業・観光業クラスター | 産業部門の割合が低く、業務部門の割合が高い。 |
農林水産業クラスター | 農林水産業の割合が高い。 |
交通クラスター | 運輸部門の割合が高い。 |
鉄鋼業系クラスター | 鉄鋼・非鉄・金属製品製造業の割合が高い。 |
化学工業クラスター | 化学工業の割合が高い。 |
(3)エネルギー需要規模類型
類型化手法:標準偏差による分類
類型化結果:エネルギー需要規模によって以下の8階級に分類できる(図3-6、図3-9)。
階級 | エネルギー需要の特徴 | |
---|---|---|
需要 低位- | [-∞, μ-2σ) | 平均μから負に標準偏差2σ以上離れた範囲に含まれる。 |
需要 低位+ | [μ-2σ, μ-σ) | 平均μから負に標準偏差2σ離れた範囲に含まれる。 |
需要 中位- | [μ-σ, μ) | 平均μから負に標準偏差σ離れた範囲に含まれる。 |
需要 中位+ | [μ, μ+σ) | 平均μから正に標準偏差σ離れた範囲に含まれる。 |
需要 高位- | [μ+σ, μ+2σ) | 平均μから正に標準偏差2σ離れた範囲に含まれる。 |
需要 高位+ | [μ+2σ, ∞] | 平均μから正に標準偏差2σ以上離れた範囲に含まれる。 |
3-4.エネルギー需給特性による市区町村の分類(複合類型)
(1)再生可能エネルギー資源類型×エネルギー需要構成類型
(2)エネルギー需要規模類型×エネルギー需要構成類型
(3)エネルギー需要規模類型×再生可能エネルギー資源類型
4.未来エネルギーシミュレーター
需要部門には、部門別の電化率と燃料代替率のパラメータがある。たとえば、運輸部門の電化率を操作すると電気自動車等の導入割合を増やして、その影響を上流側に発電部門に遡ってみることができる。燃料代替率は、既存の化石燃料需要のうち電化が困難な部分(Hard-to-abate部門)を電力由来の水素や合成燃料33によって代替する割合を表す指標である。運輸部門の水素代替率は、燃料電池車等の導入を想定している。
需要部門のエネルギー消費量の増減を可変できる。これは、人口、生産量、交通量などのエネルギー消費を伴う経済活動量の増減を反映している。
独自の考えとして、市区町村が他地域と連携してエネルギーを融通する場合を想定して、電力、木質バイオマス、水素・合成燃料の移出入量を任意に設定できる。
なお、英国政府では、ケンブリッジ大学工学部のDavid Mackay教授(1967-2016)が開発したモデルを基盤として、ビジネス・エネルギー・産業戦略省が機能を増やして国内エネルギー需給を模擬できるカーボンシミュレーター34をウェブサイトにて公開している。
33 合成炭化水素は、フィッシャー・トロプシュ(FT)法によって人工的に生成される炭化水素で、ガソリンや軽油、ジェット燃料、メタンなどの燃料やエチレンなどの化学製品原料と同じ組成の物質である。FT法は、水素と一酸化炭素を高温高圧で反応させる手法で、すでに高純度のワックス製品などで商用化されている。現在は、大気から回収したCO2を使ったFT法の研究開発が進められており、そのTRL(国際エネルギー機関が定める技術習熟レベル)は2022年末時点で6(フルスケールプラントでの実証段階)である。未来エネルギーシミュレーターでは、このCO2FT法による合成燃料の供給のシミュレーション機能を搭載している。
34 MacKay Carbon Calculator, Department for Business, UK Energy and Industrial Strategy, BEIS, https://my2050.beis.gov.uk/?levers=111111111111111
5.地方公共団体における地域エネルギー需給分析の活用事例
岩手県宮古市では、2011年3月11日に発生した東日本大震災を契機にして、同年10月に宮古市東日本大震災復興計画を策定した。宮古市には、再生可能エネルギーに関する専門的な知識や知見がなく、何をどのように進めていけばよいか手探りの状況にあり、東北大学教員の中田俊彦や大手民間企業が、市の復興に協力することとなった。さっそく、再生可能エネルギープロジェクトの具体化として、2012年度から経済産業省所管の「スマートコミュニティ導入促進事業37」に取り組んだ(図5-1)。当時は、「データベース」はなく、宮古市も市内のエネルギー需給状況がわかるデータを持ち合わせいなかった。そこで、宮古市のエネルギー需給の現況を東北大学チームが独自に分析して2012年にエネルギーフロー図を作成した。2018年には、その改良版(図5-2)を作成して宮古市に提供し、その後の社会実装に向けた脱炭素計画立案の礎となった。
35 経済産業資源エネルギー庁,FIT・FIP制度,https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/index.html
36 環境省,改正温対法に基づく再エネ促進区域の設定等に向けたゾーニングの活用について,https://www.env.go.jp/press/111050_00015.html
37 岩手県宮古市,宮古市スマートコミュニティ,https://www.city.miyako.iwate.jp/energy/smartcommunity_2.html
38 岩手県宮古市,宮古市再生可能エネルギービジョンについて,https://www.city.miyako.iwate.jp/energy/miyakosisaiseikanouenerugi-bijon.html
39 岩手県宮古市,宮古市再生可能エネルギー推進計画について,https://www.city.miyako.iwate.jp/energy/r4miyakoshi_renewableenergy_promotionplan.html
40 岩手県宮古市,宮古市再生可能エネルギー事業の導入に関するガイドラインについて,https://www.city.miyako.iwate.jp/energy/guideline.html
41 岩手県宮古市,脱炭素地域に選定されました,https://www.city.miyako.iwate.jp/energy/cn_miyako.html
42 稲葉陸太,シュタットベルケ~自然やごみのエネルギーで地域を支え、地球を守るしくみ~,国立環境研究所資源循環領域オンラインマガジン(2021),https://www-cycle.nies.go.jp/magazine/kisokouza/202104.html
43 東北電力株式会社,東北地方電気事業史(1960)
6.地域間連携の可能性
6-1.地域間連携の考え方
地域間エネルギー融通とは、ある地域の余剰エネルギーをエネルギーが不足する地域に融通することである。市区町村スケールでこれを実現するには、地域に跨るエネルギーインフラの整備や需給バランスをマネジメントするシステム共有といった地域間連携(クロスボーダー)の仕組みが必要になる。地域間連携は、複数の地域に価値を提供する公共投資を地方公共団体同士が連携して実施する枠組みが基本となり、すでに廃棄物処理や交通インフラ整備においてこの地域間連携が重要な役割を果たしてきた。近年では、地球温暖化対策や地域エネルギー計画にもその枠組みを導入する動きが見られる。
地域間連携の目的は、より実効的、より効率的な行政計画の策定と実施にある。ただし、連携に参画するどの地域においても利益が得られ、持続可能であることが前提となる。したがって、地域間連携の計画あるいは参画する地域の選定にあたっては、各地域の特強みや弱みの特徴を把握して、その特徴が地域間連携の目的達成に向けて補完的または相乗的であるかの理解が重要となる。
6-2.地域間連携による補完と効果
エネルギー資源以外の指標として、財政力に代表される行政資源、地域産業や人材といった地域資源が想定される。実際に、地域エネルギー政策の策定に向けた課題に関する地方公共団体へのアンケート調査では、財源や人材などが挙げられている44,45。また、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に基づいて、全地方公共団体にて策定が努力義務である「地方公共団体実行計画(区域施策編)」をみると、GHG排出削減目標策定率は、財政力指数46が高いほど上昇し(図6-1)、行政資源が地域脱炭素化の推進に重要な要因であることがわかる。
そこで、2指標を軸にとって地域を4象限に分類(図6-2)すると、地域同士の補完関係が明確になる。第1象限に分布する地域は、エネルギー資源も行政資源も豊富であり、単独で脱炭素化を進めることできる持続可能な地域といえる。しかし、第2、3、4象限に分布する地域は、エネルギー資源と行政資源のどちらかまたは両方が不十分であり、単独で脱炭素化が困難であると考えられる。
この分類に基づいて地域間連携を再定義すると、第2象限と第4象限に分布する地域のように相互に補完的な特徴を持つ地域同士が連携することで持続可能性を高め合う枠組みといえる。
44 環境省,地方自治体の地域エネルギー政策推進に向けた取組み状況について(報告),(2015)
45 関川千恵美,地方自治体における再生可能エネルギー政策の現状と課題-地方自治体における再生可能エネルギー政策調査結果からの考察,公共研究 (2015)
46 総務省,地方公共団体の主要財政指標一覧,https://www.soumu.go.jp/iken/shihyo_ichiran.html
地域エネルギー需給データベースを用いて地域間連携を地域エネルギーシステムデザインに導入する際の、具体的な手順を考える。
1.エネルギー需給量の収支の試算
地域資源に基づく場合を想定して、対象地域のエネルギー需給ギャップを年間総量基準で試算する。地域に賦存するエネルギー資源量を定量化し、現在の地域エネルギー需要量と比較して、それらの収支から供給量が不足か充足かを試算する。
2.再生可能エネルギー資源の地域内の分散の把握
再生可能エネルギー資源の種別毎に供給ポテンシャルを分析し、地域内での資源の分散の程度と、それらを利用するに必要な新規エネルギー変換設備やバイオマス輸送のための道路などインフラ投資を考える。ゾーニングによる地図情報が得られる場合には、これも参照する。
3.地域外とのエネルギー融通の可能性
地域間連携には、バイオマスなどエネルギー資源の融通と、電力や熱などのエネルギーキャリアの融通の二種類がある。太陽光や風力などの再生可能エネルギー資源は、それ自体を地域間連携することはできないので、電力に変換後に融通することになる。複数の地域間連記のケースを設定して、エネルギー量の需給量が均衡する地域間の組合せを求める。
4.時間の間欠性を補填するエネルギー利用への展開
再生可能エネルギー資源のなかでも太陽光や風力は、自然界の変動に伴う間欠性を併せ持つ。これを補完する手法として、セクターカップリングがある。エネルギーシステムからみて、供給側の変動(入力)を廃棄して需要側の変動(出力)と均衡させるのではない。需給両者の特徴を精緻に分析して、その間に吸収源(アブソーバー)を付加することによって、損失を減らして、地域エネルギーシステムの効率と機能を大幅に向上させることができる。
47 小野寺弘晃,根本和宜,中田俊彦,市区町村のエネルギー需給特性を考慮した広域圏エネルギーシステムの設計,エネルギー・資源学会論文誌 (2021)
(財政力指数と再生可能エネルギー移出ポテンシャルの算出に用いるエネルギー消費量は、2013年値。再生可能エネルギー資源として、太陽光、陸上風力、洋上風力、地熱、中小水力、木質バイオマス、廃棄物を考慮。)
7.セクターカップリング
7-1.セクターカップリングとは
代表的な技術として、表7-1に示す6種類がある。V2G、V2H、V2Bは総称してV2Xとよばれ、P2H、P2G、P2Lは、総称してP2Xという。
48 European Parliament, Sector coupling: how can it be enhanced in the EU to foster grid stability and decarbonise?, 2018, ISBN 978-92-846-4294-6, https://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/STUD/2018/626091/IPOL_STU(2018)626091_EN.pdf
7-2.エネルギーシステムにおけるセクターカップリングの役割
需給調整の手段として、大規模な蓄電池の導入や電力系統の大幅な増強がある。しかし、エネルギーシステムのコストが増大して、再エネ電力の価格高騰につながると懸念されている。さらに、かえって脱炭素化に向けた動きが鈍化し、1.5度目標の達成が困難になる懸念もある。そこで、セクターカップリングを導入した需給調整を実施することによって、システムコストや再エネ電力の価格を抑制できることが最近の研究から示されている。
7-3.セクターカップリングの課題と展望
- カーボンニュートラルエネルギーキャリアの供給:カーボンニュートラルな熱・燃料を供給する。とくにP2GとP2Lは、航空部門や化学製品といった電化や燃料代替が難しい部門(Hard-to-abateセクター)の化石燃料消費量を削減する。
- 再エネの付加価値創出:再生可能エネルギーに可搬性や貯蔵の容易さといった付加価値を付与する。また、再生可能エネルギー導入地域における付加価値創出により地域内経済循環につなげる。
- 電力需給調整:電力需給の過不足に合わせた柔軟な運用(負荷追従運転)により、電力の需給調整に貢献する。
(1)カーボンニュートラルエネルギーキャリア間の競合
(2)コスト低減へのトレードオフ
(3)カーボンニュートラルエネルギーキャリアの需要創出
(4)需給調整力の統合とアグリゲーション
(5)エネルギーシステムのインテグレーション
49 European Commission, EU strategy on energy system integration, https://energy.ec.europa.eu/topics/energy-systems-integration/eu-strategy-energy-system-integration_en
地域エネルギーシステムデザインのガイドライン
作成・編集:東北大学大学院工学研究科 中田俊彦研究室