Japan Energy Database

戦略的イノベーション
創造プログラム(SIP)第2期
「IoE社会のエネルギーシステム」

地域エネルギー
システムデザインの
ガイドライン

更新日/2023.3.31

はじめての方へ

 地域エネルギー需給データベースは、全国1741の市区町村別に、各地域のエネルギー需給の実態を理解するために作成した、日本で初めてのデータベースです。エネルギーの種類として、身近な電力に加えて、自動車燃料と熱エネルギーを含む全エネルギーを網羅しました。このデータベースをはじめて使う方は、以下の機能を順にお試しください。
  1. はじめに、メニュー画面の「地域を選ぶ」から、知りたい地域を選びます。
  2. 自動的に、画面にエネルギーフロー図が作図されます。図左側の燃料資源の内訳から、図右側の消費側の内訳に至るまでの一連のエネルギーの動きがわかります。線の太さは、エネルギー量に比例し、単位はTJ(テラ・ジュール、10の12乗ジュール)です。
  3. 次に、メニュー画面右側の「シミュレーションパラメータ」の各項目を動かします。太陽光発電など再生可能エネルギー量を増減させる、あるいはEVに代表される運輸部門電化率を増加させると、その項目の影響がエネルギーフロー図に反映されて変化します。
  4. 参考として、画面下部の「エネルギー起源CO2排出量」には、選んだ地域のCO2排出量が表示されます。「シミュレーションパラメータ」に連動して、数値が変わります。
  5. このほか、メニュー画面の「エネルギーマップ」には、日本地図上で各地域の特性が色別に表示されます。
  6. メニュー画面の「市区町村別エネルギー消費統計」では、各地域のエネルギーバランス表をデータ形式でダウンロードできます。ご自分のPCなどでデータ分析を進める際にお役立て下さい。
  7. 市区町村別に加えて、都道府県別や国全体のデータも掲載しましたので、広い地域特性を知りたい際にご利用ください。
 このガイドラインの構成は以下の通りです。必要に応じて参照ください。
 第1章では、地域エネルギーシステムを皆様がデザインすることを目的として、各種データの定義や算出根拠などを解説します。
 第2章では、KPIツリーに基づく地域エネルギーシステムデザインの手順をまとめます。
 第3章では、地域エネルギー需給データの構成を、出典や推定を含めて紹介します。
 第4章では、未来エネルギーシミュレータの機能を解説します。
 第5章では、地方公共団体における地域エネルギー需給データベースの活用事例として、岩手県宮古市の事例を紹介します。
 第6章では、地域間連携の可能性について、その定義と期待される効果について説明します。
 第7章では、セクターカップリングの機能と課題について解説します。

 すでにデータベースの多くの利用者の方から、ご意見やご期待を頂戴しています。その一部をご紹介します。
  1. 本データベースは、地域の現状を表す総合指標として客観的な現状把握と関係者間での共有が可能となり、自治体単位でデータ整備された意義は大きい。
  2. 今後のデータベースの機能拡充に期待している。技術導入に係わる情報や地域振興につながる指標との連携を期待する。
  3. データベースの活用事例を増やしていく方策の検討と、データを陳腐化させないためのメンテナンス体制を構築するなどの対応を期待する。
 おわりに、このガイドラインの作成にあたり、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期「IoE社会のエネルギーシステム」にて、「地域エネルギーシステムデザイン研究会」を開催し、有識者の委員の皆様方から貴重な助言を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。

 今後も皆様のご支援を得ながら、本データベースの運用を進めて参ります。

1.地域エネルギーシステムとは

 エネルギーシステムとは、エネルギー資源、エネルギー変換、エネルギー需要の三要素から構成される一連の集合体である。

1-1.エネルギー資源

 エネルギー資源は、従来は化石燃料と非化石燃料に分類されてきた。化石燃料は、炭素と水素が化合した有機物であり、その形態によって石炭(固体)、石油(液体)、ガス(気体)の三種に大別できる。非化石燃料は、原子力燃料と再生可能エネルギーのひとつである水力に代表される。近年は、これらに太陽光、太陽熱、陸上・洋上風力、海洋、地熱、バイオマスが加わった。
 バイオマスは、エネルギー作物など植物由来のバイオエタノールとバイオディーゼルが、内燃機関用の液体燃料として石油の代替として用いられる。もうひとつは、廃棄物由来のもので、家畜排せつ物(牛糞、豚糞、鶏糞)、食品廃棄物、下水汚泥、農業系廃棄物(稲わら、もみがら、麦わら)、建築廃材などである。木質バイオマスは、国内の間伐材、林地残材、製材残材、街路樹の剪定枝に加えて、海外からは木質チップやペレットの形態で火力発電の混焼燃料として輸入されている。
 エネルギー統計では、これらのエネルギー資源の年間供給量を、一次エネルギー総供給量という。

1-2.エネルギー変換

 エネルギー変換とは、エネルギー資源を各用途に利用できる形態に加工することである。エネルギーの利用形態は、電力、熱、輸送用燃料の三種であり、これらを「エネルギーキャリア」と総称する。輸送用燃料は、ガソリンや軽油などの内燃機関自動車の燃料のことである。それらの需要家側からみた割合は、現状で電力が約30パーセント、熱が約45パーセント、輸送用燃料が約25パーセントである。
 各エネルギーキャリアの特徴をみると、電力は多様なエネルギー資源を原料として、火力発電、原子力発電、水力発電、風力発電、太陽光発電等のエネルギー変換技術によって発電される。輸送用燃料は、石油を製油所にて精製して、ガソリンや軽油などの石油製品に変換される。熱は、化石燃料を燃焼して蒸気や温水等の熱エネルギーに変換される。太陽熱や地中熱も熱エネルギーの一種である。
 エネルギー資源を一次エネルギーというのに対し、エネルギーキャリアを二次エネルギーという。二次エネルギーは、需要家にて各用途に消費される。

1-3.エネルギー需要

 エネルギーキャリアを消費する需要家は、産業部門、業務部門、家庭部門、運輸部門の四部門から成る。産業部門は、鉄鋼、窯業・土石製品、 化学工業、パルプ・紙・紙加工品、食品飲料、繊維、非鉄金属、機械、農林水産、建設等からなる。業務部門は、オフィス、商業施設、学校等などからなる。家庭部門は、家庭で使用するエネルギーである。運輸部門は、旅客輸送と貨物輸送からなる。これらの需要家で消費されるエネルギー量を、最終エネルギー消費量とよぶ。

1-4.地域エネルギーシステムとエネルギーフロー図

 地域エネルギーシステムの構成を図1-1に示す。一般に、地域のエネルギーシステムの構成要素は、エネルギー資源部門、エネルギー変換部門、エネルギー需要部門の三要素である。地域内外から調達するエネルギー資源は、電力、熱、燃料などの各エネルギーキャリアに変換された後に、地域内のエネルギー需要を満たすように供給される。このエネルギー資源から最終消費に至る一連のエネルギー需給の流れをエネルギーフロー図とよぶ。エネルギーフロー図を作成することによって、「エネルギー資源」が「エネルギー変換」を経て「エネルギー需要」を満たす一連の動きを、実在の流れを見るように表現できる(図1-2)。
 エネルギーフローは、国、都道府県、市区町村、地区・建物単位など、対象とするエネルギーシステムの範囲を任意に設定できる。フロー図は、別名でサンキーダイアグラムとよび、プロセスの全貌を俯瞰する作図法としてマテリアルフローなど化学工学の分野で広く用いられている。エネルギーや物質について、プロセス毎の出入りや派生する損失量を容易に理解することが可能である。金融のキャッシュフローの作図も可能である。エネルギーフローを分析することによって、(1)エネルギー供給構成や部門別エネルギー消費量の現状把握、(2)エネルギーシステム導入計画や省エネルギー対策の立案、(3)計画導入後の地域効果の評価、にそれぞれ活用できる。
 エネルギーフロー図の構成を図1-3に示す。本「データベース」では、米国エネルギー省ローレンス・リバモア国立研究所の作図法1に基づいている。同研究所エネルギー部では、エネルギーフロー図に加えて、カーボンフロー図も作成している。また、従来は米国一国を対象としていたが、最近では米国各州のエネルギー需給を分析して州別エネルギーフロー図の作成を始めた。
 国際エネルギー機関IEAでは、世界各国のエネルギーフロー図を作図して、公開している2

1 Energy Flow Charts, Lawrence Livermore National Laboratory, https://flowcharts.llnl.gov
2 IEA Sankey Diagram, International Energy Agency, https://www.iea.org/sankey/

図1-1 地域エネルギーシステムの構成

図1-1 地域エネルギーシステムの構成

図1-2 日本のエネルギーフロー図(2019年度)

図1-2 日本のエネルギーフロー図(2019年度)

図1-3 エネルギーフロー図の構成

図1-3 エネルギーフロー図の構成

 まとめると、エネルギーフロー図、は、左から(1)エネルギー資源、(2)エネルギー転換、(3)エネルギー需要の三要素から構成される。地域内の部門別のエネルギー需要を満たすために、どのようなエネルギーが需要部門に供給されているのかなど、資源からエネルギーキャリアを通じて需要家に至る仕組みの全体を俯瞰することができる。さらに、数値データを読み取ることによって、エネルギー資源別のエネルギー供給量とエネルギー収支などが定量的に理解できる(図1-4)。
図1-4 エネルギーフロー図の情報

図1-4 エネルギーフロー図の情報

1-5.地域エネルギーシステムのデザインとは

 システムとは、「複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体」である。したがって、地域エネルギーシステムとは、地域のエネルギー資源と需要家が連携して、地域社会のエネルギー需給を満たす仕組みである。その機能の優劣は、システムの性能指標を設定して評価することになる。たとえば、利便性、経済性、供給安定性、環境保全、カーボンニュートラルなどの複数の設計指標のなかから、優先順位や重みづけを定めてシステム性能を評価することになる。客観的な評価手法としては、各指標のスコアを評点して統合する方法から、数理モデルを構築して最適化手法によって最適解を得る数値解法まで幅広い。

1-6.地域エネルギーシステムの評価指標の定義

 地域エネルギーシステムの評価指標を、下記に順に紹介する。
(1)一次エネルギー総供給量
 一次エネルギー総供給量(TPES: Total Primary Energy Supply)とは、地域内に供給された一次エネルギーの合計で、次式で定義できる。
 

一次エネルギー総供給量 [TJ] = 地域内エネルギー生産量 [TJ] + エネルギー移入量[TJ] – エネルギー移出量[TJ]


 ここで、一次エネルギーは、電力や熱などの二次エネルギーに転換される前のエネルギーであり、石炭、石油、天然ガス、風力、太陽光などが含まれる。また、風力、太陽光、地熱、中小水力などの再生可能エネルギー資源は、二次エネルギー量(発電電力量または熱供給量)に換算する際には、この二次エネルギー量と同量を、消費した一次エネルギー量とみなすことが多い。実際の再生可能エネルギー機器の変換効率(たとえば太陽電池は約14~20パーセント)を換算には加えていない。
 移出量とは、他地域へ販売し供給したエネルギー量である。いずれも、国家間の取引を表す輸出入に対応して、地域間の取引として独自に定義した。
(2)最終エネルギー消費量
 最終エネルギー消費量(FEC: Final Energy Consumption)とは、産業や家庭などの最終需要家によって消費されたエネルギー量であり、次式で定義される。
 

最終エネルギー消費量 [TJ] = 燃料消費量 [TJ] + 電力消費量 [TJ] + 熱消費量 [TJ]

(3)エネルギー転換損失
 エネルギー損失とは、一次エネルギーを電力や熱などの二次エネルギーに転換する際に生じるエネルギー損失である。たとえば、発電、石油精製、ガス改質によるエネルギー転換損失などであり、次式で定義される。
 

エネルギー転換損失 [TJ] = 一次エネルギー総供給量 [TJ] - 最終エネルギー消費量 [TJ]

(4)再生可能エネルギー移出ポテンシャル
 再生可能エネルギー移出ポテンシャルとは、地域内の再生可能エネルギー資源で地域内エネルギー需要を賄いつつ、他地域に供給可能なポテンシャルを表す独自の指標であり、次式で定義される。この値が正の場合は、地域内資源によって地域内エネルギー需要を賄うことができ、逆に負の場合には、地域内資源によって地域内エネルギー需要を賄うことが難しいことを示す。図1-5に、市区町村別の全国再生可能エネルギー移出ポテンシャルマップを示す。2013年時点のエネルギー消費量をもとに作成している。
 

再生可能エネルギー移出ポテンシャル[TJ] = 再生可能エネルギー導入ポテンシャル[TJ] - エネルギー需要[TJ]

図1-5 市区町村別再生可能エネルギー移出ポテンシャル

図1-5 市区町村別再生可能エネルギー移出ポテンシャル
(再生可能エネルギー資源として、太陽光、陸上風力、洋上風力、地熱、中小水力、木質バイオマス、廃棄物を含む。エネルギー消費量は2013年の推計値。)

(5)電化率
 需要部門にて、エネルギー消費と伴う仕事のうち、電力によって賄われている割合を表す。ここで、エネルギー消費を伴う仕事とは、たとえばガソリン自動車の場合には燃料消費によって車体を前進させることで、最終エネルギー消費量からエネルギー損失を差し引いた値、または、最終エネルギー消費量にエネルギー消費効率を乗じた値である。最終エネルギー消費量における電力消費量の割合でないことに注意されたい。
 

仕事量 = 最終エネルギー消費量 × エネルギー消費効率

電化率[%]=電力消費量・電力消費効率[TJ]/仕事量[TJ]×100
(6)エネルギー自給率
 エネルギー自給率とは、地域内に供給されたエネルギー量に対する地域内エネルギー生産量の比率である。国際エネルギー機関(IEA)の定義3に準じている。
エネルギー自給率[%]=地域内エネルギー生産量[TJ]/エネルギー供給量[TJ]×100
 この定義では、エネルギー自給率が100パーセントでも、地域外からのエネルギー移入に依存するケースが起こり得る。たとえば、地域内の再エネを地域内で使わずにすべて移出しても、定義上はエネルギー自給率100パーセントとなる。エネルギーが地域内で賄われたかどうかの地域エネルギーシステムの自立性とは異なる。

3 IEA, World Energy Balances – Database documentation 2022 edition (2022).

(7)電力自給率
 電力自給率とは、地域内で消費された電力量に対する地域内発電量の比率である。電力自給率は、再生可能エネルギーなどの地域内発電量(分子)の増加によって上昇するが、電化率の低下や人口減少によって電力消費量(分母)が減少することで上昇し、EVの普及に伴う電力消費量の増加によっても減少することがある。
電力自給率[%]=地域内発電量[TJ]/電力消費量[TJ]×100
(8)エネルギー移入依存率
 エネルギー移入依存率とは、地域内に供給されるエネルギー量のうち、地域外から移入されたエネルギー量の割合である。エネルギー移入依存率がゼロのときは、エネルギーが地域内にて賄われている。
エネルギー移入依存率[%]=エネルギー移輸入量[TJ]/地域内エネルギー供給量 [TJ]×100
(9)エネルギー起源CO2排出量
 エネルギー起源のCO2排出量、つまりエネルギーの転換および消費に伴って生じるCO2排出量である。エネルギー種ごとに算出する。化学製品原料用の原油と天然ガスは、廃棄時に廃棄物部門CO2排出量として計上されるために除外する。
 

エネルギー起源CO2排出量 [t-CO2] = 一次エネルギー供給量 [TJ] × CO2排出係数 [t-CO2/TJ]


 CO2排出量の算出における注意点を記す。地球温暖化対策計画等に記載するCO2排出量は、経済産業省と環境省の算定省令4に則って算出する必要がある。算定省令では、エネルギー種区分を表1-1のとおり考慮するよう定められている。

4 特定排出者の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量の算定に関する省令 (平成⼗八年三⽉二⼗ 九日経済産業省・環境省令第三号)別表第1(第2条関係)

表1-1 算定省令および市区町村別エネルギー消費統計のエネルギー種区分

算定省令における
エネルギー種区分
市区町村別エネルギー消費統計における
エネルギー種区分
原料炭 石炭
一般炭
無煙炭
コークス 石炭製品
コールタール
コークス炉ガス
高炉ガス
転炉ガス
コンデンセート(NGL) 原油
原油(コンデンセートを除く)
ガソリン 軽質油製品
ナフサ
ジェット燃料油
灯油
軽油
石油コークス 重質油製品
石油アスファルト
A重油
B・C重油
石油系炭化水素ガス 都市ガス・石油ガス
液化石油ガス(LPG)
都市ガス
液化天然ガス(LNG) 天然ガス
天然ガス(LNGを除く)
 「データベース」の市区町村別エネルギー消費統計のエネルギー種区分は、この省令の区分より粗いため、地球温暖化対策計画のためのCO2排出量の推計に用いることはできない。ただし、エネルギー量ベースの分析評価や、地域独自のエネルギー計画等におけるCO2排出量の概算値として用いることは可能である。
(10)地域エネルギー経済収支
 地域エネルギー経済収支とは、エネルギー移出入に伴うエネルギー代金の流出入収支である。この値が負の場合は、地域外へのエネルギー代金の支払いによる経済流出を表し、正の場合には外貨の獲得(経済流入)を表す。エネルギー移出入額は、エネルギー移出入量に卸売価格などのエネルギー単価を乗じて算出できる。
 

エネルギー経済収支 [億円/年] = エネルギー移出額 [億円/年] – エネルギー移入額 [億円/年]

2.KPIツリーに基づく地域エネルギーシステムデザインの手順

2-1.KGIとKPIの定義

 地域エネルギーシステムデザインとは、地域エネルギーシステムの全体像を的確に捉えて、将来に向けて具体的かつ定量的なビジョンまたは実行計画を策定する手続きといえる。いいかえれば、「整合性のある数値目標群」を策定する手続きである。エネルギーシステムの評価指標のように、相互に依存関係がある複数の性能指標を数値目標として採用する場合には、論理的矛盾が生じないように注意が必要である。そこで、「KPIツリー」を用いて目標間の関係を整理することが有用である。
 KPIは、重要業績評価指標(Key Performance Indicator)の略であり、目標を達成するための各プロセスが適切に実施されているかを定量的に評価する指標である。KPIツリーとは、目標群を階層的に並べ、それらの依存関係を線でつないだロジックツリー(図2-1)である。KPIツリーを作成する際には、以下が重要である。
 数値目標には、最終的に達成したいKGI(Key goal indicator, 重要目標達成指標 )とKGIを達成するために必要なKPI(Key performance indicator, 重要業績評価指標)がある。たとえば、気候変動対策を目的とする場合のKGIにはCO2排出量を、KPIには化石燃料消費量や再エネ導入量などが設定する。KGIを達成するための手段が多いほど、目標をKPIによって細分化することによって、KGI達成に向けた具体的な方策を考えることが容易になる。
 地域エネルギーシステムデザインでは複数のKGIが必要となり得る。KGIは目的に合わせて設定され、一つに絞ることが多い。しかしながら、地域エネルギーシステムデザインの目的は、脱炭素化、地域経済的価値の創出、レジリエンスやエネルギーセキュリティの向上など地域社会によって多様であり、複数のKGIが必要となってくる。その際に、一つのKPIが複数のKGIに影響する場合があるため、KGIごとにKPIツリーを作成するのではなく、すべてのKGIとKPIを網羅したKPIツリーを作成するほうが望ましい。
図2-1 地域エネルギーシステムのKPIツリーの例

図2-1 地域エネルギーシステムのKPIツリーの例

2-2.地域エネルギーシステムデザインの手順

 「データベース」を用いる具体的な手順を、図2-25に示す。
(1)ビジョン・構想づくり
  • 都道府県単位のデータでは把握できない地域のエネルギー需給の特徴を市区町村単位の「データベース」を活用して把握する。
  • 地域ごとの特徴を把握する。都道府県のデータでは把握できない、市区町村単位のエネルギー需給を「データベース」を活用して把握する。
  • 「再生可能エネルギー導入ポテンシャル」、「エネルギー需要」、「再生可能エネルギー移輸出入ポテンシャル」を、「データベース」から俯瞰する。
  • 1741市区町村のエネルギー消費統計表をダウンロードして、たとえば産業分類別のエネルギー消費割合から市区町村の特徴や類似性を分析する。
(2)計画の検討
 「ビジョン・構想」作りから「計画」検討へと進める。
  • エネルギー地産地消、広域連携等の検討のため、地域エネルギー需給の時刻変化を把握する。
  • 地域の時刻別エネルギー需要推定の骨子を検討し、現状で把握できる情報を可視化する。詳細データが得られ次第、精度を高めていく。
  • 地域内のエネルギー消費量の分布を推計する。「データベース」を活用して、現状でエネ需要の積上げが困難な部門でも相対的なボリュームを把握することができる。積上げで試算した結果の妥当性を判断する指標となる。
(3)実施と検証
地域エネルギーシステム導入の効果を検証すると共に、得られた知見を今後の計画策定にフィードバックする。

5 地方独立行政法人北海道総合研究機構齋藤茂樹,地域エネルギー需給データベースの活用事例,地域エネルギーシステムデザイン研究会(2023).

図2-2 地域エネルギーシステムデザインの手順例

図2-2 地域エネルギーシステムデザインの手順例

3.地域エネルギー需給データ

3-1.再生可能エネルギー資源データ

(1)再生可能エネルギーポテンシャルの考え方
 地域資源である再生可能エネルギーの活用を進めるために、その資源量を把握することが重要である。再生可能エネルギーの資源量を測る指標として、賦存量と導入ポテンシャルがある。賦存量は、技術的に利用可能なすべての再生可能エネルギー資源量を表す。導入ポテンシャルは、賦存量のうち実際には導入が困難な資源量を除いた量である。
 環境省は、資源量の区分と定義を表3-1に、賦存量と導入ポテンシャルを図3-1にそれぞれ定義している。

表3-1 再生可能エネルギー資源量の区分と定義6

区 分 定 義
賦存量 技術的に利用可能なエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)。設置可能面積、平均風速、河川流量等から理論的に算出することができるエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)のうち、推計時点において、利用に際し最低限と考えられる大きさのあるエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)。
導入ポテンシャル 各種自然条件・社会条件を考慮したエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)。賦存量のうち、エネルギーの採取・利用に関する種々の制約要因(土地の傾斜、法規制、土地利用、居住地からの距離等)により利用できないものを除いた推計時点のエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)。
事業性を考慮した導入
ポテンシャル
事業性を考慮したエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)。推計時点のコスト・売価・条件(導入形態、各種係数等)を設定した場合に、IRR(法人税等の税引前)が一定値以上となるエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)。
 導入ポテンシャルは、すべて利用可能であるとは限らない。たとえば、太陽光では、すべての官公庁・病院・学校・住宅・工場などの建物の屋根・屋上と、すべての耕地・荒廃農地・ため池などを対象として導入ポテンシャルを推計している。対象ごとに設置可能面積を考慮しているが、建物の用途や耐久性、屋根の形状によっては設置が困難な場合がある。また、耕地・荒廃農地は将来、農業利用や多用途での利用がなされる可能性があり、必ずしも太陽光発電に利用可能とは限らない。洋上風力発電については、対象海域に満遍なく風車を設置する想定であるが、こうした状況は漁業や海上交通への影響や、景観が損なわれるなどの社会受容性の観点から、実際に最大限導入できるとは考えにくい。
 したがって、再生可能エネルギーの導入計画や導入目標の策定にあたっては、導入ポテンシャルのうち対象地域では実際にどれだけの導入が見込まれるかを、実地調査もふまえて検討する必要がある。

6 環境省,令和 3 年度再エネ導入ポテンシャルに係る情報活用及び提供方策検討等調査委託業務報告書,https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/dat/report/r03/r03_whole.pdf

図3-1 再生可能エネルギーの賦存量と導入ポテンシャルの定義

図3-1 再生可能エネルギーの賦存量と導入ポテンシャルの定義7

(2)変動性再生可能エネルギー
 風力や太陽光は、その賦存量の多さや発電技術の進歩から、エネルギーシステムの脱炭素化に向けて中心的な役割が期待される。分単位から季節単位で変動する間欠性から、変動性再生可能エネルギー(Variable renewable energy)とよばれる。また、その間欠性や賦存量(賦存密度)といった物理的な性質は気候や地形によって異なるので、風力や太陽光を適切にエネルギーシステムに導入するためには、その時間変動と地理特性を正確に把握することが重要である。
 環境省が提供する「再生可能エネルギー情報提供システムREPOS(リーポス)」では、再生可能エネルギーポテンシャルメニューとして太陽光、風力など六種の再生可能エネルギーのポテンシャル推計結果やポテンシャルマップ等を公表している7。たとえば、太陽光発電の年間発電電力量は、JIS C 8907:2005「太陽光発電システムの発電電力量推定方法」8を参考に算出し、日射量・月平均気温はNEDO日射量データベース閲覧システムMONSOLA-209から取得している。陸上風力発電の年間発電電力量は、環境省「風況変動データベース」の風況マップ(年平均風速:地上高80m)10をもとに地上高90mの年平均風速を解析し、年平均風速5.5m/s 以上を抽出し、さらに開発困難条件(自然条件、社会条件)を重ね合わせて風力発電施設が設置可能なエリアを抽出し加工している。
 以下の章では、太陽放射コンソーシアム11が提供する30分間隔および1kmメッシュの高時空間解像度気象データ(以下、AMATERASSデータセット)を用いて、風力・太陽光資源の賦存量を推定した事例を紹介する。

7 環境省, 再生可能エネルギー情報提供システム, https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/index.html
8 日本産業標準調査会, JISC8907太陽光発電システムの発電電力量推定方法(2005)
9 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構, 日本国内日射量データベース(月平均データMONSOLA-20、時刻別データMETPV-20),https://www.nedo.go.jp/library/ZZFF_100041.html
10 環境省, 風況マップ(全国),https://www.env.go.jp/earth/ondanka/windmap/
11 特定非営利活動法人太陽放射コンソーシアム http://www.amaterass.org/

(3)風力資源の賦存量の推定例
 推定にあたり、AMATERASSデータセットに収録されている高度10m地点の風速データを用いて、タービンのナセル高さ(地上100m)の風速を推定する12。地形の粗さを考慮するために、たとえば海上のような起伏の少ない地形では、高度による風速の変化は少ないと考える。次に、陸上・洋上用風力タービンの出力曲線(各風速に対する理論的発電量)に基づいて、風速を風力発電量に変換する13。1基あたりの設置面積は、後流の乱れ(ウェイクロス)による損失の影響を緩和するために、ローター径をDとして8D×8D km2とする14
 2019年を対象に推計した風力資源賦存量マップ(年間発電量ベース)を、図3-2に示す。この図では、洋上については、自然保護公園と水深200m以上のエリアを除く離岸距離30km以内のエリアを対象として可視化している。

12 R. Delage, T. Matsuoka, and T. Nakata, Spatial–Temporal Estimation and Analysis of Japan Onshore and Offshore Wind Energy Potential, Energies 14 (2021) 2168
13 環境省,REPOS令和元年度再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報等の整備・公開等に関する委託業務報告書(2020)
14 T. Ackermann, Wind Power in Power Systems, Ed. John Wiley & Sons Ldta (2005)

図3-2 風力資源賦存量(年間発電量ベース)(2019年気象衛星観測データに基づく1kmメッシュ値)

図3-2 風力資源賦存量(年間発電量ベース)
(2019年気象衛星観測データに基づく1kmメッシュ値)

(4)太陽光資源の賦存量の推定例
 太陽電池パネルの傾斜角と太陽の位置を考慮し、直達日射、拡散日射、反射日射の強度に基づいてパネル表面の日射量を推定する15,16。パネルの傾斜角は、南向き10度と仮定する。次に、標準効率(約20%)、インバーター等の機器効率(約90%)、およびモジュールの温度に対する効率(7%)を用いて、日射量を発電量に変換する17。パネル温度の推定では、周囲気温、放射強度、風速を考慮し、熱拡散による遅延を考慮するとともに18、各メッシュの土地利用状況に基づく設置係数を考慮する6
 2019年を対象に推計した太陽光資源賦存量マップ(年間発電量ベース)を、図3-3に示す。

15 I. Reda and A. Andreas, Solar Position Algorithm for Solar Radiation Applications, NREL/TP-560-34302, Revised (2008)
16 R. Perez, P. Ineichen, R. Seals, J. Michalsky, and R. Stewart, Modeling Daylight Availability and Irradiance Components from Direct and Global Irradiance, Energy 44, (1990) 271
17 T. Huld, M. Súri, and E. D. Dunlop, Geographical variation of the conversion efficiency of crystalline silicon photovoltaic modules in Europe, Prog. Photovolt. Res. Appl. 16 (2008) 595
18 M. K. Fuentes, A Simplified Thermal Model for Flat-Plate Photovoltaic Arrays, Sandia National Labs (1988)

図3-3 太陽光資源賦存量(年間発電量ベース)(2019年気象衛星観測データに基づく1kmメッシュ値)

図3-3 太陽光資源賦存量(年間発電量ベース)
(2019年気象衛星観測データに基づく1kmメッシュ値)

 以上の手法を用いて、風力・太陽光資源の賦存量を推定した分析結果は、環境省の再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)の「時空間ポテンシャルデータ」19にて2022年度から公開されている。

19 環境省, 再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)時空間ポテンシャルデータ, https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/41.html

(5)木質バイオマス資源賦存量
 木質バイオマス資源は、発電用燃料としてだけでなく、熱供給用燃料や熱電併給用燃料として活用可能であることに加え、地域の林業振興や地域経済循環にも寄与する。地域別の木質バイオマス資源賦存量の推計手法の一例を紹介する。前提条件として、天然林と保安林は自然保護や災害対策等の観点から除外し、民有林・国有林の人工林を推計対象とする。また、森林資源の持続的な利用および建築用材・合板・製紙等のマテリアル利用との競合に配慮し、①森林蓄積の年間増加量、②年間伐採実績量における未利用資源量、③枝条発生量、を対象とする。①から③までの各推計手法を以下に紹介する。体積ベース(m³)の賦存量は、容積密度[dry-t/m³]と単位発熱量 [GJ/dry-t]を乗じればエネルギー量に変換できる。


①森林蓄積の増加量(用材利用部分を除く)
 都道府県ごとの蓄積増加量を森林面積により按分し推計する。はじめに、「森林資源現況調査(農林水産省)」20の樹種別齢級別都道府県別の森林蓄積量の直近2回分(5年間隔)の差から5年間の都道府県別蓄積増加量を推計し、さらにそれを5年で除すことで年間平均値を算出する。この森林蓄積増加量に未利用資源発生割合を乗じて、エネルギー利用可能な資源量を得る。未利用資源発生割合は、「森林・林業統計要覧(農林水産省)」21に収録されている年間伐採量(伐採立木材積)」から素材生産量を除いた割合として、簡易的に算出できる。

②年間伐採実績量における未利用資源量
 都道府県別未利用資源の年間発生量は、「森林・林業統計要覧(農林水産省)」の伐採立木材積の全国値を「木材需給報告書(農林水産省)」22の都道府県別素材生産量を用いて都道府県に按分し、その按分値から都道府県別素材生産量を差し引いて算出できる。

③枝条発生量
 枝条発生量は、蓄積増加量および伐採実績量にバイオマス拡大係数を乗じて推計できる。バイオマス拡大係数とは、幹の体積に対する枝条発生量の割合を表した係数であり、日本国温室効果ガスインベントリ報告書などに記載されている。バイオマス拡大係数は樹種によって値が異なるため,各県ごとに樹種別の素材生産割合を用いて加重平均の値を用いている。

20 農林水産省林野庁,森林資源の現況,https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/genkyou/index1.html
21 農林水産省林野庁,森林・林業統計要覧,https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/toukei/youran_mokuzi2022.html
22 農林水産省林野庁,木材統計調査(木材需給報告書),https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/mokuzai/

3-2.市区町村別エネルギー消費量の推計手法

 国内で公的機関が作成するエネルギー統計には、全国を対象とした「総合エネルギー統計(経済産業省)」23と都道府県を対象とした「都道府県別エネルギー消費統計(経済産業省)」24がある。市区町村を対象とするエネルギー統計は整備されていない。環境省が作成する「自治体カルテ」25では、市区町村別・部門別のCO2排出量データの推計値が入手できる。CO2排出量の情報には、そもそも排出源となる化石燃料の種別が含まれていないので、脱炭素実行計画に有用な電化、燃料代替、エネルギー消費の効率化といったエネルギー利用側からみた行動計画目標を定量的に定めることが難しく、結果として環境行動の啓発や啓蒙に重点を置かざるを得ない。つまり、全地方公共団体に対して、地球温暖化対策実行計画の策定が努力義務あるいは義務づけられていても、肝心な市区町村のエネルギーデータが欠けていた。
 市区町村別エネルギー消費量を推計するための手法を大別すると、表3-2に示す二手法が代表的である。本「データベース」は、按分法に基づく。

表3-2 市区町村別エネルギー消費量の推計手法

手法の名称 按分法
(トップダウン型推計手法)
積上法
(ボトムアップ型推計手法)
手法の概要 国や都道府県のデータを、エネルギー消費量と相関のある活動指標により比例配分する。 アンケート調査やセンシング等の個票データに基づいて統計的に拡大推計する。
利点
  • データの入手可能性が高い。
  • 推計が容易。
  • 地域特性が反映されやすい。
  • 統計的信頼性の評価が可能。
欠点
  • データの信頼性の評価が難しい。
  • 他地域の特性の影響を受ける。
  • 施策のPDCAに活用できない。
  • 個票データの収集コストが高い。
  • 選択バイアスが生じる可能性がある。
 将来的には、電力スマートメーター26やIoT機器、携帯電話27などGPSから収集されるビッグデータの活用や人工知能による推計精度の向上に伴って、より高精度な推計やビッグデータである実績データの自動収集が期待できる。
 米国エネルギーエネルギー情報局(US-DOE, EIA)28では、従来からのエネルギーデータ分析に加えて、近年ではAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)連携29を装備したオープンデータを主体とする情報提供プラットフォーム30を開発し公表を始めている。

23 経済産業省資源エネルギー庁,総合エネルギー統計,https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/
24 経済産業省資源エネルギー庁,都道府県別エネルギー消費統計,https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/energy_consumption/ec002/
25 環境省,自治体排出量カルテ,https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/tools/karte.html
26 一般社団法人電力データ管理協会,https://denkankyo.jp/#about
27 総務省、位置情報の取り扱いに検討について,https://www.soumu.go.jp/main_content/000738897.pdf
28 U. S. Energy Information Administration, https://www.eia.gov
29 デジタル庁, 行政API, https://www.e-gov.go.jp/digital-government/api
30 U. S. Energy Information Administration, https://www.eia.gov/opendata/

3-3.エネルギー需給特性による市区町村の分類

 全国1741の市区町村のなかで、すべての地域が独自の特徴を持つことは考えにくい。むしろ、エネルギー需要や再生可能エネルギー資源量などのエネルギー需給特性が類似する地域は、脱炭素ビジョンなどの地域エネルギー計画が類似してくるほうがふつうであろう。そこで、地域エネルギー需給データを用いて市区町村を類型化してみた。
(1)再生可能エネルギー資源類型
類型化指標:再生可能エネルギー導入ポテンシャル(陸上風力、洋上風力、太陽光(建物系)、太陽光(土地系)、地熱中小水力、木質バイオマス、廃棄物)※常用対数により正規分布に近似。
類型化手法:階層型クラスター分析(Ward法)
類型化結果:地理特性を反映した以下の6クラスターに分類できる(図3-4、図3-7)。
クラスター 資源に関する特徴
沿岸山地クラスター 陸上/洋上風力ポテンシャルが高い。
沿岸平地クラスター 洋上風力ポテンシャルが高い。
都市クラスター 建物系太陽光・廃棄物以外のポテンシャルが低い。
中山間地域クラスター 建物系太陽光・廃棄物・木質バイオマス・陸上風力ポテンシャルが高い。
火山地域クラスター 地熱・中小水力ポテンシャルが高い。
山林地域クラスター 中小水力・陸上風力・木質バイオマスポテンシャルが高い。
(2)エネルギー需要構成類型
類型化指標:最終エネルギー消費量の部門別構成比(業務部門、家庭部門、運輸部門、産業14部門の計17部門)
類型化手法:階層型クラスター分析(Ward法)
類型化結果:産業構造等を反映した以下の8クラスターに分類できる(図3-5、図3-8)。
クラスター エネルギー需要の特徴
製紙業系クラスター 紙・パルプ・紙加工品製造業の割合が高い。
窯業系クラスター 窯業・土石製品製造業の割合が高い。
平均的クラスター 他クラスターに含まれない地域によって構成される。
商業・観光業クラスター 産業部門の割合が低く、業務部門の割合が高い。
農林水産業クラスター 農林水産業の割合が高い。
交通クラスター 運輸部門の割合が高い。
鉄鋼業系クラスター 鉄鋼・非鉄・金属製品製造業の割合が高い。
化学工業クラスター 化学工業の割合が高い。
(3)エネルギー需要規模類型
類型化指標:合計最終エネルギー消費量 ※常用対数により正規分布に近似する。
類型化手法:標準偏差による分類
類型化結果:エネルギー需要規模によって以下の8階級に分類できる(図3-6、図3-9)。
階級 エネルギー需要の特徴
需要 低位- [-∞, μ-2σ) 平均μから負に標準偏差2σ以上離れた範囲に含まれる。
需要 低位+ [μ-2σ, μ-σ) 平均μから負に標準偏差2σ離れた範囲に含まれる。
需要 中位- [μ-σ, μ) 平均μから負に標準偏差σ離れた範囲に含まれる。
需要 中位+ [μ, μ+σ) 平均μから正に標準偏差σ離れた範囲に含まれる。
需要 高位- [μ+σ, μ+2σ) 平均μから正に標準偏差2σ離れた範囲に含まれる。
需要 高位+ [μ+2σ, ∞] 平均μから正に標準偏差2σ以上離れた範囲に含まれる。
図3-4 再生可能エネルギー資源の類型比較結果

図3-4 再生可能エネルギー資源の類型比較結果

図3-5 エネルギー需要構成の類型比較結果

図3-5 エネルギー需要構成の類型比較結果

(a) 再生可能エネルギー資源類型

(a) 再生可能エネルギー資源類型

(b) エネルギー需要構成類型

(b) エネルギー需要構成類型

図3-6 各クラスターの類似度(デンドログラム)

図3-7 再生可能エネルギー資源類型の全国マップ

図3-7 再生可能エネルギー資源類型の全国マップ

 
図3-8 エネルギー需要構成類型の全国マップ

図3-8 エネルギー需要構成類型の全国マップ

図3-9 エネルギー需要規模類型の全国マップ

図3-9 エネルギー需要規模類型の全国マップ

3-4.エネルギー需給特性による市区町村の分類(複合類型)

 再生可能エネルギー資源、エネルギー需要構成、エネルギー需要規模の3類型をそれぞれ掛け合わせて、各クラスターの複合的特性を分析した。
(1)再生可能エネルギー資源類型×エネルギー需要構成類型
 最も多くの地域が含まれるクラスターは、交通×中山間地域クラスターであり、231市区町村が所属する。中山間地域では、公共交通網が都市部ほど整備されておらず、商業施設等の目的地も疎らで遠いことから交通需要が高いと推測でき、そうした地域特性が類型に反映されたと考える。このクラスターに所属する地域では、電気自動車の導入によるCO2排出削減効果のインパクトが大きい。また、再生可能エネルギー資源も比較的豊富であることから、気候変動対策において地域内再生可能エネルギー資源と電気自動車の導入による運輸部門の脱炭素化が効果的と考えられる(表3-3)。
(2)エネルギー需要規模類型×エネルギー需要構成類型
 この複合類型では、エネルギー需要構成類型の各クラスターに所属する地域の需要規模を推測できる。例えば、エネルギー集約型産業の鉄鋼業系や化学工業、製紙業系クラスターでは多くの地域が需要中位+階級に所属しており、エネルギー需要が高いことが確認できる。また、交通クラスターに所属する約7割の地域は需要低位-階級から需要中位-階級であり、地域規模が小さいと考えられる(表3-4)。
(3)エネルギー需要規模類型×再生可能エネルギー資源類型
 この複合類型では、再生可能エネルギー資源類型の各クラスターに所属する地域の需要規模を推測できる。都市クラスターは需要中位+階級、中山間地域クラスターや山林地域クラスターは需要中位-階級が最大となることから、資源類型から推定された地域形態とエネルギー需要規模から推定された地域形態が一致していると確認できる(表3-5)。

表3-3再生可能エネルギー資源類型とエネルギー需要構成類型の複合類型における市区町村数分布

表3-3 再生可能エネルギー資源類型とエネルギー需要構成類型の複合類型における市区町村数分布

表3-4エネルギー需要構成類型とエネルギー需要規模類型の複合類型における市区町村数分布

表3-4 エネルギー需要構成類型とエネルギー需要規模類型の複合類型における市区町村数分布

表3-5再生可能エネルギー資源類型とエネルギー需要規模類型の複合類型における市区町村数分布

表3-5 再生可能エネルギー資源類型とエネルギー需要規模類型の複合類型における市区町村数分布

4.未来エネルギーシミュレーター

 「データベース」では、現状の地域エネルギー需給データに基づいて、地域の現状を理解することに主眼を置いている。ここでは、付加機能として、将来のエネルギー需給の変化を、各自が任意に操作して体感できる「未来エネルギーシミュレーター」を紹介する。メニュー画面右側の「シミュレーションパラメータ」には、計27種の条件を任意する機能があり、大きく7グループに分類できる。これらは、「再生可能エネルギー導入量」9種、エネルギー消費想定として「部門別電化率」5種、「燃料代替率」3種、マクロフレームの想定として「社会経済指標増減率」4種、「系統電力の想定」1種、地域間エネルギー融通の想定として「エネルギー移輸入量」2種と「移輸出量」3種である。複数同時に組み合わせて条件設定が可能であり、エネルギーフロー図の形状とエネルギー起源CO2排出量など各性能指標が変化する。たとえば、再生可能エネルギー導入に伴うCO2削減効果を試算しつつ、エネルギー需給システムの構造変化を同時に理解できる(図4-1)。
図4-1 未来エネルギーシミュレーターの概要

図4-1 未来エネルギーシミュレーターの概要

 再生可能エネルギー導入量は、既設導入量を初期値、導入ポテンシャルを上限として可変できる。再生可能エネルギー導入ポテンシャルは、自然環境の特性に地域の地勢・社会的条件を考慮して算出されたものであり、必ずしも全量をただちに導入できる訳ではない。
 需要部門には、部門別の電化率と燃料代替率のパラメータがある。たとえば、運輸部門の電化率を操作すると電気自動車等の導入割合を増やして、その影響を上流側に発電部門に遡ってみることができる。燃料代替率は、既存の化石燃料需要のうち電化が困難な部分(Hard-to-abate部門)を電力由来の水素や合成燃料31によって代替する割合を表す指標である。運輸部門の水素代替率は、燃料電池車等の導入を想定している。
 需要部門のエネルギー消費量の増減を可変できる。これは、人口、生産量、交通量などのエネルギー消費を伴う経済活動量の増減を反映している。
 独自の考えとして、市区町村が他地域と連携してエネルギーを融通する場合を想定して、電力、木質バイオマス、水素・合成燃料の移出入量を任意に設定できる。
  なお、英国政府では、ケンブリッジ大学工学部のDavid Mackay教授(1967-2016)が開発したモデルを基盤として、ビジネス・エネルギー・産業戦略省が機能を増やして国内エネルギー需給を模擬できるカーボンシミュレーター32をウェブサイトにて公開している。

31 合成炭化水素は、フィッシャー・トロプシュ(FT)法によって人工的に生成される炭化水素で、ガソリンや軽油、ジェット燃料、メタンなどの燃料やエチレンなどの化学製品原料と同じ組成の物質である。FT法は、水素と一酸化炭素を高温高圧で反応させる手法で、すでに高純度のワックス製品などで商用化されている。現在は、大気から回収したCO2を使ったFT法の研究開発が進められており、そのTRL(国際エネルギー機関が定める技術習熟レベル)は2022年末時点で6(フルスケールプラントでの実証段階)である。未来エネルギーシミュレーターでは、このCO2FT法による合成燃料の供給のシミュレーション機能を搭載している。
32 MacKay Carbon Calculator, Department for Business, UK Energy and Industrial Strategy, BEIS, https://my2050.beis.gov.uk/?levers=111111111111111

5.地方公共団体における地域エネルギー需給分析の活用事例

 現在、地方公共団体では、従来から奨励されてきた温暖化対策実行計画の立案に加えて、脱炭素計画の具体的立案など、実効性の高い施策が求められている。さらに、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)(2011)33を契機にした再生可能エネルギー設備の新たな導入に伴って、ゾーニング34、合意形成など新たな地域社会に密接に関わる課題に直面している。ここでは、岩手県宮古市が災害を契機にして地域社会のエネルギー計画を地方公共団体自らが牽引してきた経緯を紹介する。
 岩手県宮古市では、2011年3月11日に発生した東日本大震災を契機にして、同年10月に宮古市東日本大震災復興計画を策定した。宮古市には、再生可能エネルギーに関する専門的な知識や知見がなく、何をどのように進めていけばよいか手探りの状況にあり、東北大学教員の中田俊彦や大手民間企業が、市の復興に協力することとなった。さっそく、再生可能エネルギープロジェクトの具体化として、2012年度から経済産業省所管の「スマートコミュニティ導入促進事業35」に取り組んだ(図5-1)。当時は、「データベース」はなく、宮古市も市内のエネルギー需給状況がわかるデータを持ち合わせいなかった。そこで、宮古市のエネルギー需給の現況を東北大学チームが独自に分析して2012年にエネルギーフロー図を作成した。2018年には、その改良版(図5-2)を作成して宮古市に提供し、その後の社会実装に向けた脱炭素計画立案の礎となった。

33 経済産業資源エネルギー庁,FIT・FIP制度,https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/index.html
34 環境省,改正温対法に基づく再エネ促進区域の設定等に向けたゾーニングの活用について,https://www.env.go.jp/press/111050_00015.html
35 岩手県宮古市,宮古市スマートコミュニティ,https://www.city.miyako.iwate.jp/energy/smartcommunity_2.html

図5-1 創設期:宮古市スマートコミュニティ(2012年)

図5-1 創設期:宮古市スマートコミュニティ(2012年)

 地域エネルギーの供給源として、「宮古発電合同会社」によって4メガワットの太陽光発電所を整備した。エネルギーの供給としては、「宮古新電力株式会社」を設立し、市内の公共施設や民間施設などへの電力供給の体制が整った。宮古新電力は、2023年1月末現在で、193施設へ供給している。並行して、カーシェアリング、電気自動車の充電器設置も進めてきた。スマートコミュニティ構築当時、各事業は、企業がSPCを作って取り組む民間主体から始めて、その後、官民一体の協議の場として、「宮古市スマートコミュニティ推進協議会」を設立した。さらに、新たな再生可能エネルギーの推進として「再生可能エネルギービジョン」36、「再生可能エネルギー推進計画」37、「再生可能エネルギー事業の導入に関するガイドライン」38を相次いで策定して、新たな展開に入った(図5-3)。

36 岩手県宮古市,宮古市再生可能エネルギービジョンについて,https://www.city.miyako.iwate.jp/energy/miyakosisaiseikanouenerugi-bijon.html
37 岩手県宮古市,宮古市再生可能エネルギー推進計画について,https://www.city.miyako.iwate.jp/energy/r4miyakoshi_renewableenergy_promotionplan.html
38 岩手県宮古市,宮古市再生可能エネルギー事業の導入に関するガイドラインについて,https://www.city.miyako.iwate.jp/energy/guideline.html

図5-2 東北大学提供の宮古市エネルギー需給分析の一例

図5-2 東北大学提供の宮古市エネルギー需給分析の一例

図5-3 展開期:スマートコミュニティーからゼロカーボンシティへ

図5-3 展開期:スマートコミュニティーからゼロカーボンシティへ

 このような準備段階を経て、2022年には環境省の脱炭素先行地域に選定39されて、地域脱炭素の社会実装を全国に実践するモデル地域となった(図5-4)。

39 岩手県宮古市,脱炭素地域に選定されました,https://www.city.miyako.iwate.jp/energy/cn_miyako.html

図5-4 実践期:脱炭素先行地域による地域エネルギーシステムの構築と実践

図5-4 実践期:脱炭素先行地域による地域エネルギーシステムの構築と実践

 以上から、宮古市では地域社会のエネルギー需給の実態把握から始めて、エネルギーのレジリエンスと脱炭素化を両立する切り札として、再生可能エネルギーの導入を柱とする実行計画を策定しその社会実装を進めている。過去を振り返ると、地域社会のエネルギー事業の経験として、一世紀前の大正11年(1922)時点で複数の中小規模の電力会社が宮古地域でも事業を営んでいた事実も大きい(図5-5)。山あいの300人の集落に誕生した刈屋電気はドイツ製の小水力発電を、沿岸部の宮古電気はディーゼル発電機器をそれぞれ輸入して、地域電化の礎となった。いずれも地域の名士であった政治家や実業家が率先して資本投入し、故郷の生活様式の近代化におおきく貢献した。その後、第二次世界大戦を経て、大規模集約化の電気事業へと統合が進んだ結果、巨大なエネルギーインフラを補填する機能として、地域分散型のエネルギー事業が脱炭素の価値を付加して再登場してきた。中山間地のくらしと地域交通を守り、さらに再生可能エネルギーの恩恵を地域社会にて実感できるしくみとして、欧州のシュタットベルケ40の宮古市版が始まっている。
図5-5 原点:東北地方の電気事業者(大正11年)

図5-5 原点:東北地方の電気事業者(大正11年)41

40 稲葉陸太,シュタットベルケ~自然やごみのエネルギーで地域を支え、地球を守るしくみ~,国立環境研究所資源循環領域オンラインマガジン(2021),https://www-cycle.nies.go.jp/magazine/kisokouza/202104.html
41 東北電力株式会社,東北地方電気事業史(1960)

6.地域間連携の可能性

6-1.地域間連携の考え方

 再生可能エネルギー資源のポテンシャルやエネルギー需要には、地域特性がある。異なる特性を持った地域同士が連携して相互に補完し合う、あるいは類似する地域同士が連携して相乗効果を生み出すことによって、より持続可能な地域エネルギーシステムを実現することが地域間連携の目的である。再生可能エネルギーを主体とする地域エネルギーシステムを実現するためには、再生可能エネルギー資源とエネルギー需要の時間間欠性(時間変動・季節変動)と、空間偏在性に適応した需給調整の仕組みが必要となり、そのひとつとして、地域間のエネルギー融通がある。
 地域間エネルギー融通とは、ある地域の余剰エネルギーをエネルギーが不足する地域に融通することである。市区町村スケールでこれを実現するには、地域に跨るエネルギーインフラの整備や需給バランスをマネジメントするシステム共有といった地域間連携(クロスボーダー)の仕組みが必要になる。地域間連携は、複数の地域に価値を提供する公共投資を地方公共団体同士が連携して実施する枠組みが基本となり、すでに廃棄物処理や交通インフラ整備においてこの地域間連携が重要な役割を果たしてきた。近年では、地球温暖化対策や地域エネルギー計画にもその枠組みを導入する動きが見られる。
 地域間連携の目的は、より実効的、より効率的な行政計画の策定と実施にある。ただし、連携に参画するどの地域においても利益が得られ、持続可能であることが前提となる。したがって、地域間連携の計画あるいは参画する地域の選定にあたっては、各地域の特強みや弱みの特徴を把握して、その特徴が地域間連携の目的達成に向けて補完的または相乗的であるかの理解が重要となる。

6-2.地域間連携による補完と効果

 地域同士の補完関係について考える。たとえば、エネルギー資源が豊富に賦存する地域Aとエネルギー需要過多の地域B、いいかえれば、エネルギー移出ポテンシャルが正の地域Aと負の地域Bの関係を考える。地域Aは地域Bのエネルギー不足を解消できるため、「地域Aは地域Bにとって補完的である」といえる。一方で、地域Aは自地域のみでエネルギー需要を満たせるため、地域Bは地域Aにとって必ずしも必要ではなく、「地域Bは地域Aにとって補完的とはいえない」。したがって、地域Aにとってはインセンティブがないので、連携が成立しない可能性がある。しかし、仮に地域Aが財政的余裕の不足によりエネルギー資源の活用を推進できず、地域Bは財政的に十分余裕があるという場合には、地域Bが地域Aに財政的協力を実施して地域Aにとって地域Bと連携するインセンティブが発生し、相互の利益が期待されるため連携が進むことになる。したがって、地域間連携に参画する地域同士は相互に補完的であることが望ましく、再生可能エネルギーの融通を軸とする場合には、エネルギー資源賦存量またはエネルギー移出ポテンシャルに加えて、財政力など別の指標が必要となってくる。
 エネルギー資源以外の指標として、財政力に代表される行政資源、地域産業や人材といった地域資源が想定される。実際に、地域エネルギー政策の策定に向けた課題に関する地方公共団体へのアンケート調査では、財源や人材などが挙げられている42,43。また、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に基づいて、全地方公共団体にて策定が努力義務である「地方公共団体実行計画(区域施策編)」をみると、GHG排出削減目標策定率は、財政力指数44が高いほど上昇し(図6-1)、行政資源が地域脱炭素化の推進に重要な要因であることがわかる。
 そこで、2指標を軸にとって地域を4象限に分類(図6-2)すると、地域同士の補完関係が明確になる。第1象限に分布する地域は、エネルギー資源も行政資源も豊富であり、単独で脱炭素化を進めることできる持続可能な地域といえる。しかし、第2、3、4象限に分布する地域は、エネルギー資源と行政資源のどちらかまたは両方が不十分であり、単独で脱炭素化が困難であると考えられる。
 この分類に基づいて地域間連携を再定義すると、第2象限と第4象限に分布する地域のように相互に補完的な特徴を持つ地域同士が連携することで持続可能性を高め合う枠組みといえる。

42 環境省,地方自治体の地域エネルギー政策推進に向けた取組み状況について(報告),(2015)
43 関川千恵美,地方自治体における再生可能エネルギー政策の現状と課題-地方自治体における再生可能エネルギー政策調査結果からの考察,公共研究 (2015)
44 総務省,地方公共団体の主要財政指標一覧,https://www.soumu.go.jp/iken/shihyo_ichiran.html

図6-1 財政力指数と温室効果ガス(GHG)排出削減目標策定率の関係(財政力指数は2013年、GHG排出削減目標策定率は2022年10月末時点の値)

図6-1 財政力指数と温室効果ガス(GHG)排出削減目標策定率の関係
(財政力指数は2013年、GHG排出削減目標策定率は2022年10月末時点の値)

図6-2 再生可能エネルギーを軸とする相互補完的な地域間連携の分類

図6-2 再生可能エネルギーを軸とする相互補完的な地域間連携の分類

 この地域間連携の考え方では、国内の約9割の市区町村では個別に地域脱炭素化を実現することが困難である45。これは、国内の全1,741市区町村のエネルギー資源量(エネルギー移出ポテンシャル)と財政力(財政力指数)の関係を調査した結果に基づいて述べている。図6-3には、地域エネルギー需給データを用いて、この理論を検証した。文献1の分類手法に倣うと、第一象限に分布する持続可能な地域は、全体の223市区町村であり全体の約13%に留まる。すなわち、残りの87%の市区町村では、地域脱炭素化に向けてエネルギー資源と行政資源(財政力)のどちらかまたは両方が不十分であることになる。

 地域エネルギー需給データベースを用いて地域間連携を地域エネルギーシステムデザインに導入する際の、具体的な手順を考える。

1.エネルギー需給量の収支の試算
 地域資源に基づく場合を想定して、対象地域のエネルギー需給ギャップを年間総量基準で試算する。地域に賦存するエネルギー資源量を定量化し、現在の地域エネルギー需要量と比較して、それらの収支から供給量が不足か充足かを試算する。

2.再生可能エネルギー資源の地域内の分散の把握
 再生可能エネルギー資源の種別毎に供給ポテンシャルを分析し、地域内での資源の分散の程度と、それらを利用するに必要な新規エネルギー変換設備やバイオマス輸送のための道路などインフラ投資を考える。ゾーニングによる地図情報が得られる場合には、これも参照する。

3.地域外とのエネルギー融通の可能性
 地域間連携には、バイオマスなどエネルギー資源の融通と、電力や熱などのエネルギーキャリアの融通の二種類がある。太陽光や風力などの再生可能エネルギー資源は、それ自体を地域間連携することはできないので、電力に変換後に融通することになる。複数の地域間連記のケースを設定して、エネルギー量の需給量が均衡する地域間の組合せを求める。

4.時間の間欠性を補填するエネルギー利用への展開
 再生可能エネルギー資源のなかでも太陽光や風力は、自然界の変動に伴う間欠性を併せ持つ。これを補完する手法として、セクターカップリングがある。エネルギーシステムからみて、供給側の変動(入力)を廃棄して需要側の変動(出力)と均衡させるのではない。需給両者の特徴を精緻に分析して、その間に吸収源(アブソーバー)を付加することによって、損失を減らして、地域エネルギーシステムの効率と機能を大幅に向上させることができる。

45 小野寺弘晃,根本和宜,中田俊彦,市区町村のエネルギー需給特性を考慮した広域圏エネルギーシステムの設計,エネルギー・資源学会論文誌 (2021)

図6-3 財政力指数と再生可能エネルギー移出ポテンシャルの関係

図6-3 財政力指数と再生可能エネルギー移出ポテンシャルの関係

(財政力指数と再生可能エネルギー移出ポテンシャルの算出に用いるエネルギー消費量は、2013年値。再生可能エネルギー資源として、太陽光、陸上風力、洋上風力、地熱、中小水力、木質バイオマス、廃棄物を考慮。)

7.セクターカップリング

7-1.セクターカップリングとは

 セクターカップリング46とは、エネルギーシステムを構成する電力部門や熱部門、燃料部門、需要部門といった各部門(セクター)が協調することで、電力、熱、燃料といったエネルギーキャリアを相互に変換し、エネルギーの生産、貯蔵、輸送、消費の柔軟性を高める概念である。前述のクロスボーダーに準じて、クロスセクターともいう。
 代表的な技術として、表7-1に示す6種類がある。V2G、V2H、V2Bは総称してV2Xとよばれ、P2H、P2G、P2Lは、総称してP2Xという。

46 European Parliament, Sector coupling: how can it be enhanced in the EU to foster grid stability and decarbonise?, 2018, ISBN 978-92-846-4294-6, https://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/STUD/2018/626091/IPOL_STU(2018)626091_EN.pdf

7-2.エネルギーシステムにおけるセクターカップリングの役割

 セクターカップリングに共通する役割は、エネルギーの生産、貯蔵、輸送、消費の柔軟性を高めることによるエネルギーシステムの需給調整にある。主要な需給調整の仕組みとして、発電出力調整、エネルギー貯蔵、地域間エネルギー融通、デマンドレスポンスがあり、各セクターカップリング技術は図4-1のように対応する。
 需給調整の手段として、大規模な蓄電池の導入や電力系統の大幅な増強がある。しかし、エネルギーシステムのコストが増大して、再エネ電力の価格高騰につながると懸念されている。さらに、かえって脱炭素化に向けた動きが鈍化し、1.5度目標の達成が困難になる懸念もある。そこで、セクターカップリングを導入した需給調整を実施することによって、システムコストや再エネ電力の価格を抑制できることが最近の研究から示されている。

表7-1 需給調整におけるセクターカップリングの位置づけ

表7-1 需給調整におけるセクターカップリングの位置づけ

7-3.セクターカップリングの課題と展望

 表7-2に、地域エネルギーシステムにおけるV2XとP2Xの課題と展望を整理する。P2Xに期待されるおもな役割は、次の三点である。
  • カーボンニュートラルエネルギーキャリアの供給:カーボンニュートラルな熱・燃料を供給する。とくにP2GとP2Lは、航空部門や化学製品といった電化や燃料代替が難しい部門(Hard-to-abateセクター)の化石燃料消費量を削減する。
  • 再エネの付加価値創出:再生可能エネルギーに可搬性や貯蔵の容易さといった付加価値を付与する。また、再生可能エネルギー導入地域における付加価値創出により地域内経済循環につなげる。
  • 電力需給調整:電力需給の過不足に合わせた柔軟な運用(負荷追従運転)により、電力の需給調整に貢献する。
これらの役割を実現するためには、次の(1)から(5)の課題解決を進める必要がある。
(1)カーボンニュートラルエネルギーキャリア間の競合
 カーボンニュートラルなエネルギーキャリアとして、再エネ電力やバイオマス燃料(木質系、廃棄物系、藻類系など)と競合する。それぞれのエネルギーキャリアに特徴があり、適する用途は異なるが、性質が類似する場合にはコストや供給ポテンシャルによって導入可否が決定する。なお、家庭における給湯・暖房といった低温熱需要は、基本的に電気ボイラーやヒートポンプにより電化した方が効率がよい。最も効率がよい技術はヒートポンプであるが、ヒートポンプは給湯速度が遅いため、蓄熱槽の併設が必要となる。
(2)コスト低減へのトレードオフ
 P2Xのコスト(水素・合成燃料の製造コスト)は、電力調達価格と設備利用率に強く依存する。化石燃料と競合する水準までコストを低減させるためには、安価な電力と一定の設備利用率が必要である。電力のダイナミックプライシングを導入することで安価な電力を調達できる可能性がある一方で、負荷追従運転によって設備利用率が低下するというトレードオフがある。また、過度なダイナミックプライシングは再生可能エネルギー発電の事業性を低下させる可能性がある。
(3)カーボンニュートラルエネルギーキャリアの需要創出
 付加価値創出を目的としてP2Xを実施する場合、熱・燃料需要が十分にあることが前提となる。たとえばP2Hは、地域冷熱供給システムの熱源としての利用が想定されるが、地域冷熱供給システムの導入には一定の熱需要密度が必要となる。
(4)需給調整力の統合とアグリゲーション
 電力の需給調整力として、系統用蓄電池やV2G、家庭等によるデマンドレスポンスと競合する。それぞれ需給調整における柔軟性(応答速度や調整容量、貯蔵可能期間など)が異なるため、市場原理等によって相互補完的に最適運用されるような仕組みが必要である。
(5)エネルギーシステムのインテグレーション
 セクターカップリングは、電力、熱、輸送用燃料など各エネルギーキャリアが、新たな需要家と結ばれることである。つまり、従来のエネルギー事業が個別に脱炭素化や効率化を図るのではなくて、最終需要家と新たに連携や結合することによって、エネルギーシステム全体としての最適化が可能になる47。このためには、従来のエネルギー供給に関わるさまざまな障壁を取り除き、全体最適に向けた仕組みの構築が重要となる。解像度の高いエネルギー消費データなど、現状のアナログベースの事業マネジメントから、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)連携によるオープンデータを活用する事業モデルへの転換と、その具体的な変換の戦略も大きな役割を果たす。セクターカップリングは、個別技術の市場導入ではなくて、エネルギーシステム全体のインテグレーションに成功したときに初めて、その価値と恩恵が社会に還元されると考えられる。

表7-2 代表的なセクターカップリング技術

表7-2 代表的なセクターカップリング技術

47 European Commission, EU strategy on energy system integration, https://energy.ec.europa.eu/topics/energy-systems-integration/eu-strategy-energy-system-integration_en

地域エネルギーシステムデザインのガイドライン

更新日:2023年3月31日
作成・編集:東北大学大学院工学研究科 中田俊彦研究室